CULTURE
:杏さん×呉美保監督「毎日の“名もなき家事”と向き合うことが大切です」/映画『私たちの声』対談 前編
CULTURE
:“映画、芸術、メディアを通して女性を勇気づける”というスローガンに賛同した人々が、世界中から集結して実現した映画『私たちの声』。アメリカやイタリアなど各国を舞台にした7つの物語が、見る人の心を明るく照らします。日本版『私の一週間』を制作した呉美保監督と主演の杏さんに、本作への思いを聞きました。
杏さん×呉美保監督「毎日の“名もなき家事”と向き合うことが大切です」/映画『私たちの声』対談 前編
「これを撮らずして、一生映画を作ることはできないと思った」(呉監督)
――映画『私たちの声』はジェンダーギャップをテーマにした、世界規模のプロジェクトです。すでに国際映画祭で評価されている女性監督、主演は日本の5本の指に入る女優ということで声がかかったそうですが、オファーを受けたときのお気持ちをお聞かせください。
呉 美保さん(以下、呉):お話をいただいたときに上の子は5歳、下の子は0歳で、映画を撮る時間も余裕も体力もないという時期でした。出産して5年間、長編映画を一本も撮っていなくて、自分はいつ撮るんだろう、もう一生撮れないんじゃないかと、モヤモヤした気持ちで毎日を過ごしていたんです。ジェンダーギャップがテーマと伺って、これはまさに今、自分が抱えている気持ちじゃないかと思って、飛びつかせていただきました。これを撮らずして、私は一生、映画を作ることはできないくらいの気持ちで臨みました。
杏さん(以下、杏):私生活では育児に追われる母親なので、仕事の中ではなるべく違うことができたらいいなという気持ちが今までありました。ですが、今回はジェンダーギャップを描くというメッセージ性が含まれていたので、直球の母親役をやってみたいと思いました。
呉:この作品は、杏さんなしでは成立しませんでした。ある意味、丸裸になっていろいろなシーンに臨んでくださって、どのシーンも想像以上のお芝居でした。この作品で杏さんと出会えたことは、今後の映画作りにおける大切な財産になるでしょう。
杏:ありがとうございます。最初に脚本を読んだときには、とても楽しいけれど、とても難しい作品だと感じました。多くの撮影現場では、衣装やヘアメイクをカットごとにきれいに直しますが、今回はナチュラルさを前面に出していたので、あまり作りこまないで演じられました。映像のつながりを気にしてカチコチになるというようなことがなく、ナチュラルに演じられたと思います。

杏さん衣装:ブラウス¥29,700/LE PHIL、ネックレス¥25,300/SASKIA DIEZ、リング¥37,400/GABRIELA ARTIGAS、ピアス¥12,000/MOUNIR(すべてLE PHIL NEWoMan 新宿店 03-6380-1960)
「過剰にドラマティックにするでもなく、普通の物語として描いているところが素敵」(杏さん)
――『私の一週間』では、子育てと仕事に追われるシングルマザーの多忙なルーティンを描いています。この物語はどのような思いから生まれたものですか?
呉:ジェンダーギャップを描こうと思えば、いろいろな切り口があって、政治でも、恋愛でも、いろんなアプローチができると思います。ただ、今回は2か月後には完成させなければならなかったのと、自分自身が置かれている状況がジェンダーギャップそのものだと感じたので、そこを描くことに決めました。
杏:私も、日本ではこと育児に関してや家事という部分では、女性の負担や背負う部分がかなり大きいのではないのかなと思います。今作は、子どもを持つ母親の多忙な日常を、声高にメッセージ性を誇張したり、過剰にドラマティックにするでもなく、普通の物語として描いているところがすごく素敵だなと感じました。
呉:「ワンオペ」という言葉をよく聞きますけど、夫は仕事でなかなか帰ってこず、妻が仕事をやりながら育児も家事もやっているという表現では、暗に男性を責めることになってしまうんじゃないかと考えたんです。それを解決するには、責任の擦りつけ合いではなく、それぞれが称え合う関係になるべきだと。それで、主人公をシングルマザーにして、子どもを育てながら働くことがどれくらいの作業量になるかをシンプルに描いてみたいと思ったんです。男性も含めて、いろいろな方たちに、家事育児は“名もなき家事”と向き合うことなんだと感じてもらえたら。

©WOWOW 映画『私の一週間』より
「7つのストーリーを通して、いろんな国の生活や文化が見られる贅沢な映画です」(呉監督)
――アメリカ版では『ドリームガールズ』のジェニファー・ハドソンやトップモデルのカーラ・デルヴィーニュ、イタリア版では『デスパレートな妻たち』のエヴァ・ロンゴリアが出演していて、ほかの物語も見応えがありそうです。全編を見た感想を教えてください。
杏:ざらっとしている感じだったり、キンと冷えた雰囲気だったり、ほっこり優しいタッチだったり、それぞれの物語の空気感やテイストが全く違っているので、7本の映画をみたような充実感がありました。
呉:ジェンダーギャップというテーマではありますが、いろんな国の生活や文化、抱えている問題なども含めて見られるので、なかなか贅沢な2時間になるはず。
杏:様々な国の様々な女性の姿が描かれていますから、必ずどなたか一人には思いを馳せることができるのではないかと思います。作品から何を受け取るかは見る人の立場によって幅があると思うので、ぜひいろんな方に見ていただきたいです。

インタビュー後編では、映画をきっかけにママ友となったお二人の子育てやお仕事のお話をたっぷり伺いました。
Profile


作品情報

アメリカ、イタリア、インド、そして日本から、映画業界で活躍する女性たちが起こした奇跡のムーブメント。女性のエンパワーメントやジェンダーの多様性が叫ばれ、<寛容な心>が求められる現代。世界の映画界で活躍する女性監督と女優が集結し、女性が主人公の7つのショートストーリーを紡ぎ出した映画『私たちの声』。主題歌『Applause』は、第95回アカデミー賞歌曲賞にノミネート。日本版『私の一週間』は、子育てと仕事に追われる多忙なルーティンを繰り返すシングルマザー(杏)と子どもたちの、心温まる物語。
©2022 ILBE SpA. All Rights Reserved.
こちらもチェック!
photograph:Chihiro Oshima styling:Noriko Sugimoto(WHITNEY) hair & make-up:Ai Inuki(agee) text:Harumi Yasuda
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
おすすめ記事 RELATED ARTICLES
Recommend
SNAPRanking
DAILY
/
WEEKLY






































