杏さん×呉美保監督「ママ友として共感したり、刺激をもらったりしてます」/映画『私たちの声』対談 後編 杏さん×呉美保監督「ママ友として共感したり、刺激をもらったりしてます」/映画『私たちの声』対談 後編
「フランスの家庭の姿を学習している途中です」(杏さん)
――仕事と家事育児を両立する秘訣は?
杏:いろんな可能性を想定して、プランB、プランCまで考えておくことかな。あんまり考えすぎてガチガチになってもよくないですけど。たとえば、なにかイベントを計画していたときには、突然予定が変わることもあるよねと含みを持たせておいたりします。
呉:今回は短編なので、私自身は本当の意味での復帰だと思っていないんです。長編映画は準備に何か月もかかりますし、監督として自分が答えを出して進めていかなければならないし。仕事のサイクルを考えると子育てしながらだと難しいだろうと想像して、なかなか手をつけられずにいます。ベビーシッターに預けて時間を作ればいいということではなくて、夕方には撮影が終わって子どもとの時間を持って育児をしながら映画を作ることができてこその両立だと思うんです。映画業界が抱える課題も多いですし、自分一人で改善できる問題でもないですが、新作を撮るときには少しでも新しいサイクルを確立していくことが夢です。
――杏さんは今、パリとの二拠点生活を送られていますが、子育てで変化はありましたか?
杏:日本は保育園や幼稚園は親が送迎しますが、小学校にあがったら一人で登校するようになりますよね。でも、フランスや多くの国では小学校の間も送迎が必要なので、今も送り迎えをしています。それから、パリを含めてヨーロッパでは朝は火を使わない、ましてや火を使ってじっくり料理をするのは週末だけという家庭も多いみたいで。
呉:そうなんですか!? やっぱり日本とは文化が違うんですね。
杏:スーパーで“朝ごはん用”と書いてあるクッキーを見つけたので、友人に聞いてみたら、牛乳にジャブジャブつけて食べるそうなんです。そういう情報から推察しつつ、フランスの家庭の姿を学習している途中です。意外に、どの国でも一般の家庭の姿を垣間見ることはすごく難しくて。海外の人から、日本人は普段から寿司やてんぷらを食べていると思われることも多いですし、私たちもアメリカではハンバーガーを食べているのかなとイメージしたりしますし。そういう意味でも、今回の作品で日本の家庭の母親の姿を細かく描いたことは、とても意義があると感じています。
呉:杏さんが二拠点生活を始めたと聞いたときには、ただただすごいなと感服しました。旅行じゃなく、子どもと一緒に引っ越すことで起きるいろんな段取りや手続きを考えるだけで、人のことなのに途方にくれるようでした(笑)。「パリ行きが決まりました」ってすごく軽くメールをくれて、ますます尊敬してしまいました。
杏:監督はご出身の三重県から上京されてますよね。私はその経験がなかったんです。
呉:東京出身だと帰省する機会がないですもんね。
杏:だから、人生に1回くらい東京の外に出ることが必要だったんじゃないかなと思っています。
呉:ものすごく出ましたね(笑)。杏さんの決断力と行動力を見せていただいて、私もできるだろうと考えられるようになりました。二拠点生活はまだ無理だけど、長編映画を撮らなくては!と思っています。
Profile
作品情報
アメリカ、イタリア、インド、そして日本から、映画業界で活躍する女性たちが起こした奇跡のムーブメント。女性のエンパワーメントやジェンダーの多様性が叫ばれ、<寛容な心>が求められる現代。世界の映画界で活躍する女性監督と女優が集結し、女性が主人公の7つのショートストーリーを紡ぎ出した映画『私たちの声』。第95回『Applause』は本年度アカデミー賞歌曲賞にノミネート。日本版『私の一週間』は、子育てと仕事に追われる多忙なルーティンを繰り返すシングルマザー(杏)と子どもたちの、心温まる物語。
©2022 ILBE SpA. All Rights Reserved.
photograph:Chihiro Oshima styling:Noriko Sugimoto(WHITNEY) hair & make-up:Ai Inuki(agee) text:Harumi Yasuda
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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