1996年に京都にて結成、電車の窓から見える移り変わる景色のようなバンド・サウンドで、多くの人々に感動や興奮を届けている、くるりのみなさん。最新アルバム『感覚は道標』は、20年以上ぶりにオリジナル・メンバーが揃って、静岡県・伊豆のスタジオでセッション。また、そのレコーディングの様子を映画『くるりのえいが』として公開されました。小旅行のお供に聴きたい内容。電車好きの岸田繁さんにおすすめスポットもうかがいました。
映画がきっかけとなったオリジナルメンバーのセッション
━━完成したアルバム『感覚は道標』は、20年ぶり以上にオリジナルメンバーである森信行さんがドラムで参加。なぜ、このタイミングでセッションすることになったのですか?
岸田繁さん(以下岸田さん) もっくんは一度バンドから離れているのですが、その後も付き合いは続いていて、ライヴやスタジオなどで一緒になる機会がありました。今回は映画(『くるりのえいが』)を撮影するお話をいただいていたので、どうせやるのであれば、みんなが<あっ>と驚くことをしたいという考えもありましたし、映画のなかでも触れているのですが、この3人でなければ出せない音があって、この体制でまた作ってみたいという気持ちもありました。
━━タイミングがちょうどあったという感じですかね?
岸田さん はい。そのちょうどいいタイミングが、気づいたら20年以上経過して訪れたみたいな。
━━久々のレコーディングでちょっと照れくさいみたいなものもなく?
佐藤さん そうですね。普段から交流がありますし、もし、脱退後にもっくんが音楽活動をやっていなかったら、そんな気持ちもあったのかもしれません。
岸田さん 広島東洋カープの新井貴浩さん(現監督)が、広島に入団して、一度阪神へ移籍したものの古巣へ戻ってきた、みたいな感じですかね。
━━いい例えですね(笑)。また、本作は静岡県・伊豆にあるスタジオで制作されたそうですね。
岸田さん 使用させていただいたスタジオは、1970年代からある施設です。現在では珍しい、合宿しながら制作ができるスタジオなんです。自分たちも、10~20年前くらいにプリプロなどで使用させていただいた記憶があるのですが、今回は初めてレコーディングで使用しました。設備は古いですが、とても環境が良くて。近くに観光名所がありながらも、アジの干物とか地元の食材をその場でいただけたりとか。レコーディングの合間や休憩中は、ワイワイしながら過ごしていたんですけど、そういう時間が、今回大切だったと思います。近年は、レコーディングするスタジオに入って作業を終えたら終了、という流れも多いので。でも、今回はバンドの作品ですし、もうちょっとパーソナルな部分を反映させたものにしたかったんです。これまでもそういうものを作ってきたとは思っていますが、きっと、同じ場所で暮らしながら制作をしたら、自ずとパーソナルなものが生まれるというか。アルバムの方向性が自然に見えてくるのかなと思いました。
佐藤さん これまで制作した楽曲を、レコーディングした場所ごとにフォルダに分けて管理しているのですが、過去に伊豆のスタジオで録音したプリプロの音源が個人的に好きだったんです。そこで見たもの、食べたものや、感じたものが、今回のアルバムや映画のサントラにも反映されているのかなって思います。
<くるりにしか出せない音>を味わってほしい
━━アルバムを聴かせていただいて、改めてくるりはロック・バンドだなという「感覚」がわきでてきました。
岸田さん 近年は比較的、狭いスタジオで作ることが多かったのですが、今回は大きなスタジオで、その場の空気感をしっかり録音することができたことができました。また、今回は各自スタジオに集まるときに、事前にアイデアを持ち込まず、ゼロの段階から3人で制作した曲がほとんどというか、すべてなので。ロック・バンドっぽい響きになったのかもしれませんね。生簀料理みたいな感じ?違うか(笑)。それくらいの感覚で制作していましたね。
━━以前は今回のような曲の作り方をされたことは?
岸田さん 結成当初は、そういう作り方しかできなかったですね。
━━原点回帰という要素もあるのでしょうか。
岸田さん その要素もあるかもしれませんが、これまでの経験があるので、以前のものと現在ではやっていることが違うと思います。
佐藤さん かつて当たり前にやったことをもう1回やろうみたいな感じですね。今回は、それをどれだけ楽しめるか?みたいな。そういう環境に再び自分たちの身を置くことができたっていうのがよかったなと思います。
━━収録されている楽曲「朝顔」は、2001年に発表された名曲「ばらの花」のその後の世界を感じさせる内容ですね。<ばら>が20年以上の時が経過して<朝顔>へと変化していく。時の流れに思いを巡らせてしまいました。
岸田さん やっぱり楽曲って、作ってみるとその瞬間のものしか表現できなくって。当時をそのままコピーするのが、一番難しい気がします。例えば、16世紀の建造物を、当時のままで再生させるのが大変なように。この楽曲で言うと、「ばらの花」は16世紀に作られたものではないですが、当時と同じ具材や材料はないですし、年齢や実績を積んで、音作りも変わっている。だったら、この梁を使用せずに、こういうふうに建てていきましょう的な感覚で、遊んでいるうちにこれまで培ってきた技術を駆使して、現在を表現した楽曲ですね。
━━また、アルバム全体の歌詞に関して考察すると、「なくなってしまったもの」に対して思いを巡らせているような内容のものが多いような気がしました。
岸田さん 生活のなかで起こっていること、見えてくるもの、自分が置かれている状況が歌詞に反映されますし、周りを見渡して何かがなくなってしまったり、新しく別のものがやってきたりとか。そういう折に触れる機会が多くなったのかなと思います。ただ、過去を懐かしむとか、そういうものとは違って。もし、ここにもっくんがいなかったら、回顧することもあったのかもしれません。、今を生きていて、未来を見据えるとなると、時の流れのようなものを、自然に意識せざるを得なくなります。
━━佐藤さんは、過去の時間に思いを寄せながら制作した部分はありましたか?
佐藤さん 僕にはそういう気分はなくて。あまり過去のことを掘り起こさない性格なので、この時はこうだったなとか、そういうことが浮かんでくることはあったと思うんですけど、あんまり深く考えたことはないですね。
━━確かに、過去のことに思いを巡らせながらも、そこで時を止めているのでなく、さらに前に進んで行こうとするバンドの姿が伝わってくる作品になりましたね。
岸田さん 完成したばかりなので、まだこのアルバムを消化中なのですが、完成してみてすごい達成感があるんですよね。でも次は次でどうなるかわかならい。1試合1試合向きあって、自分なりの結果を残していかなくてはいけないという感じですね。
━━また、ライヴも楽しみになってくる内容でした。
佐藤さん 制作中はライヴのことは気にしなかったのですが、さっき言っていたように、獲れたてピチピチな音になっているので、それをステージで演奏したら、自分のなかでアルバム収録曲の立ち位置というか、意味がわかってくるのではないかと思っていて。楽しみにしています。
━━読者には、このアルバムを通じてどんな景色を感じていただきたいですか?
岸田さん みなさんにとっては、昔のメンバーと共演したり、映画の公開があったりなど、話題になる部分が多いと思うのですが、作品としては一番リラックスして、自分たちにとって普通の食材を使って、また着心地のいい服を身につけて完成した感じなんです。40代のあるあるかもしれないですけど、20年前はいろんな選択肢があったけれどだんだんそれが狭まってきて、最大公約数的なものしか残らない時代にもなってきていて。そのなかで大事なことは、自分がもし過去に良い時代を過ごしたという実感があるのであれば、その時期の優れていたものにもう一度触れてみること。同時に、それって今に例えるなら、これですよね?というものを見つけておくことが大切だと思います。じゃないと、どんどん老け込んでいきそうな気がするので。このアルバムでは、ちゃんと時代にアンテナを張り巡らせながら、それでも自分はこうです!と言えるものができた気がします。だから、聴いてくださっている人も、好きな人と好きなことをしてください、という感じですかね。
佐藤さん この間、ザ・クロマニヨンズさんと共演させていただいて、この方々にしか出せないことをやっていたんだなって、改めて感じたのですが、自分たちもこのアルバムを完成させたことで<くるりにしか出せない音>があると思いました。だから、そういうものを味わっていただけたらと思います。
伊豆急行は懐かしい気分に浸れる人も
━━年齢を重ねてより大切なものや音楽にフォーカスされている印象がしました。きっと、普段の暮らしもそういう雰囲気なのではと思ったのですが。今、大切にしているもの・ことは何ですか?
佐藤さん 多分、4〜5年前にリンネルさんの付録だったトートバッグは今でも使わせていただいていますよ(笑)。
━━ありがとうございます! 岸田さんはいかがですか?
岸田さん そうですね。この間初めてネットオークションをしました。めちゃくちゃ欲しいものを手に入れて、幸せな気持ちです。
━━ちなみに何を購入されたのですか?
岸田さん 廃車になった電車の部品ですね。
━━さすが電車がお好きな岸田さんですね。ちなみに、読者におすすめの電車や路線ってありますか?例えば、都心から1泊2日でおすすめの場所とか。
岸田さん レコーディングで訪れた伊豆は素敵ですよ。温泉や食べ物も豊富で、観光地以外にも素敵な場所がたくさんあります。また、伊豆急行という私鉄では、かつて東急東横線で走っていた電車に乗れる機会があると思うので、ちょっと懐かしい気分に浸れる人もいらっしゃるのでは。
NEW ALBUM『感覚は道標』
now on sale
通算14作目となるオリジナル・アルバム。先行配信された「In Your Life」のIzu Mix、「California coconuts」も収録されている全13曲。改めてロック・バンドであるくるりの魅力が伝わる作品に。生産限定盤には、映画のサウンドトラック収録のCDとTシャツをパッケージ。
Profile
くるり/メンバーは、岸田繁(Vo&G)と、佐藤征史(B&Vo) 。1996年に森信行(Dr)とともにバンドを結成、98年にメジャー進出。10月13日〜今回のアルバム制作を追った初のドキュメンタリー映画『くるりのえいが』が全国公開&デジタル配信中。
こちらもチェック!
photograph:Chihaya Kaminokawa styling:Masayo Morikawa hair & make-up:Kyoko Kawashima text:Takahisa Matsunaga
リンネル2023年12月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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