CULTURE
:古内東子さん「年齢をかさねた現在だからこそ描けた恋愛と人生」/アルバム『Long Story Short』インタビュー
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:時代の感覚によりそった恋愛ソングを数多く発表している、古内東子さん。最新アルバムは「誰より好きなのに」(1996年発表)などを手がけた小松秀行さんが全曲アレンジで参加された作品。<あの頃>の恋愛に思いをめぐらせながらも、これからどんな生きかたや暮らしを築いていくべきか。そんな気づきを与える、芳醇な味わいのある作品になっています。
映画館が現在の創造の源

━━2年ぶりとなるアルバムになりますが、この期間はコンスタントにライブ活動をされている印象がしました。
古内東子さん(以降敬称略) そうですね、ライブを毎月敢行しているような活動ですね。しかも、メンバー構成やパフォーマンス形式も変わっていくので、リハーサルもその都度必要だったりとかで、それに追われていた2年だったのかもしれません。
━━今回のアルバムは小松秀行さんが全曲アレンジ。小松さんとも、ライブでセッションする機会が多かったと思うのですが。
古内 ここ1、2年でベーシストとして共演をお願いする機会が増えて、その流れでアルバムもという話につながりましたね。
━━全曲アレンジのアルバムはかなり久しぶりなのでは?
古内 全面的でいえば、『魔法の手』(98年)以来になりますね。
━━いかがでしたか?小松さんとの曲作りは。
古内 データのやりとりといった技術的なところは変化していますね。できるだけ無駄なく、利便性を重視するタイプですから(笑)。でも、それ以外は特に変化はないですね。
━━小松さんのアレンジの特徴はありますか?
古内 小松さんは、第一にベーシストという大前提があるので、アレンジを本職としているかたとはアプローチが違いますね。自分が音の一部として存在するという考えで、アレンジをされるので、ライブでどういう響きになるのかを考えて制作されていると思います。結果、私との距離感が近い音になる気がしますね。
━━また、ほかに参加されているバンド・メンバーのみなさんも多彩な顔ぶれですね。
古内 そうですね。パーカッションの斉藤ノヴさんは、以前にラジオ共演はあったのですが、一緒に制作をするのが、これが初めてだったり。また、最近ライブで共演する機会の多い、ピアノの宮下純さんのような若手のミュージシャンなどにもお願いしたりして、幅広い世代のミュージシャンのみなさんに参加していただきました。
━━世代間のギャップはありましたか?
古内 みなさん私以外の場所で共演経験があったりするので、そんなに違和感みたいなものはなかったですし。世代間のギャップを理由に何かをしないのはなしにしようという流れにもなっていましたので。また、今回のメンバーで初めて集合して演奏した瞬間の空気がいちばんフレッシュで楽しかったという印象がありましたね。総じてとても楽しいレコーディングになりました。
━━確かに、楽しい雰囲気はアルバムからも伝わってきました。そのサウンドに包まれて、古内さんはどういう思いで楽曲制作に取り組まれましたか?
古内 今回は曲作りのエンジンがかかなくて、大変でしたね。まず、新しい音楽制作ソフトをどう使うのか?ということから制作が始まったので。それをマスターするのに1ヶ月くらいかかりました(苦笑)。それから、本格的な楽曲制作がスタートしたこともあってか、なんとか8曲が完成して。レコーディング入ってどうにか納得のいくものにたどり着いたという感覚ですね。
━━ソングライター・モードに切り替わるスイッチみたいなものはあるのですか?
古内 とにかく締め切りが迫ってくるっていう脅迫感が一番で、そこから逃げる場所を探していた結果、たどり着くのが映画館でした。
━━どんな映画をご覧になられるのですか?
古内 ジャンルにこだわることはなくて、とにかく大型施設に行って上映しているものをなんでも観るという感じですね。
━━確かに、古内さんの楽曲はシネマティックですよね。曲ごとに起承転結がありますし。そのあたりも曲作りに影響があるのでしょうね。
古内 ライブはアウトプットばかりで、インプットする機会が少ないですし、またほかのミュージシャンの公演に行ってもいろんなことが気になったりして、純粋に楽しめない自分がいる。だから映画を観るのがちょうど良くて。結果、2、3時間で起承転結をつけるストーリー展開とか、いろいろと曲作りのヒントになることが多いのかもしれませんね。
「1990年代の私は無敵でした(笑)」

━━リード曲「満月のせいにして」も映像的です。
古内 曲作りのときって孤独を感じることがありまして。それは、寂しいとか悲しいみたいなネガティブな感覚ではなく、何かやるべきことに向かってる瞬間って、人間は誰しも孤独になると思いますし、そうなる時間ってとても大切なのではないかと思うのです。また、20代の頃にはなかったのですが、年齢をかさねると<これでいいんだっけ?><もっとこうじゃなきゃいけないんじゃないか?>とか、アーティストとしてだけでなく、人間としてこれから何ができるんだろうと逡巡する機会も増えてくる。そのいっぽうで、<今日は週末だから解放させてあげよう>とか、<今日は満月だから身体のバランスおかしいのかな?>と開き直る自分もいる。そういう気分を行ったり来たりのくり返しで、日々を暮らしているような感覚を表現しながら、自分なりのエールを送ることができれば、という思いで制作したものになりますね。私にとってはめずらしくラブソングじゃない楽曲なのかもしれません。
━━確かに、本作は恋愛をモチーフにしながらも人生にも思いを巡らせることができる楽曲が多い印象がしました。
古内 誰かを思う気持ちとか、その関係性といった<恋愛>というワードはやっぱり生きているうえで欠かせないものだと思います。それが過去のものだったりしても、現在と複雑にからみあっていますし。複合的な要因で、現在の自分がいると思う。だから、あの頃の恋愛を回想することもあれば、未来に思いを託してみたり。本作では、そういうことを含めた<恋愛>を描くことができたのかなって思います。
━━歌詞のフレーズにもありましたが、90年代のころは爽快なバニラアイスのような雰囲気だとしたら、本作ではそこにキャラメリゼしたような濃密な味わいが広がる楽曲ばかりですよね。これからの季節にじっくり聴きたくなります。
古内 (苦笑)。若い頃は泣いたり笑ったり悩んだりもしつつも、どこか無敵だったとこがあって。年齢をかさねていくたびに、臆病になってくるというか。自分に自信もなくなっているし、他人の気持ちもわかるようになっているから、言いたいことも言えなかったり、向こうが言いたいことを先に言ってあげるとか。そういうふうに変化しているので、過去の恋愛(楽曲)を歌っていても、異なる雰囲気になる。でも、その変化がいまは可愛らしいなって思うようになりました。
━━タイトル曲「Long Story Short」は、まさにその心境を象徴されたような仕上がりですよね。
古内 この年齢になると、誰しもがも長すぎる話を持ってますが、それを手短に言う術もあることを表現した楽曲になりますね。
昼食作りが、自分の機嫌をとられる時間

━━年齢や時代の変遷とともに、暮らしぶりにも変化があると思うのですが。
古内 私ってせっかちで合理主義的なので、やっと時代が私の考えについてきたという感覚があります(笑)。AIも駆使して、いろんなことを簡単に調べることができるようになって、このままだと誰ともコミュニケーションしなくなりそうだなって不安になるくらい。
━━確かにそうですよね。また収録曲に「No Coffee Day」がありますが、古内さんの暮らしにコーヒーは欠かせないのでしょうか?
古内 確かにコーヒー好きではありますけれど、自分で豆を挽いてとか、質の高いものを追求してはいなくて。自宅の周辺にはコーヒー屋さんがたくさんあるのですが、時間をじっくりかけて淹れられたものをたしなむより、チェーン店やコンビニにあるものでじゅうぶんだったりします。ただ、フレーズにもあるのですが、飲まなかった日は心のこりな気分になりますね。
━━暮らしのスイッチを切り替えてくれるような効果みたいなものがあるのでしょうかね。
古内 朝は絶対に飲むので、スイッチといえばスイッチなのかもしれません。
━━では古内さんの暮らしのルーティンみたいなものはあるのですか?
古内 人に自慢できるようようなものではないのですが、お昼ご飯は自炊をするようにしていますね。朝や夜は家族のためという考えも入りますが、お昼は自分のわがままで好きなものを選ぶことができるし、そのためにスーパーや百貨店に買い物をするのが好きで。最近、自分の機嫌をとるために最適なことは、スーパーに行くことだとわかりました。
━━そうやって自分の機嫌をとりながら、今後も精力的な活動をされていくのでしょうね。このアルバムは、これからの活動にどんな影響をもたらしそうですか?
古内 本作は、さまざまな世代のミュージシャンが、自然に融合して素敵なサウンドが生まれた感覚がしますし、また個人的には肩の力が抜けたアルバムになったと思っています。歌詞も等身大の言葉ではありますが、いろんな世代の方に響く内容だと思いますし、時代の気分ともそんなに離れていなんじゃないかなって。なので、このアルバムがたくさんの人に届くといいなと思っています。また、ライブは90年代のころから応援してくださるかたも多いのですが、そうでない人もいらっしゃるので、興味を持っていただいたら気軽に足を運んでいただきたいですね。
━━12月の東京公演も楽しみです。今後はどんなキャリア、年齢の重ねかたをされたいですか?
古内 本当に信じられないのですが、デビュー35、40周年とか還暦とか、そういった区切りが徐々に迫っている感覚がありまして(苦笑)。それを見すえると、大切な時期に輝いている状態でいなくてはという考えがよぎることもありますが、自然体で楽しくやっていれば誰かがどこかで見ていただけるのかな?みたいなところに考えが落ち着く。だから、あまり気にすることなく活動を続けられたらと思います。
現在の思いをこめた最新作『Long Story Short』

古内東子/¥3,850
ソニー・ミュージックレーベルズ
now on sale
21作めとなるオリジナル・アルバム。先行トラック「満月のせいにして」などを含む全8曲を収録。古内さんならではの心を潤わせるバラード曲はもちろん、エレクトリックなグルーブを展開するアップテンポな楽曲など、幅広いサウンドで、年齢や状況に関係なく恋をする大切さを教えてくれます。
PROFILE
ふるうち・とうこ/1972年東京都生まれ。93年にデビュー。98年発表のアルバム『魔法の手』で初のチャート1位を獲得。以降も数多くの恋愛ソングで多くのリスナーを魅了させ続ける。12月28日には、東京・日本橋三井ホールにて「⽇本橋STYLE presents TOKO FURUUCHI ~year end gift~」を開催。詳細および最新情報はオフィシャル・サイトをチェック。
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photograph: Aya Sunahara hair & make-up: Yukari Ohkawa text: Takahisa Matsunaga
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