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【映画『アアルト』監督インタビュー】 生誕125周年にひもとく、アルヴァ・アアルトの人生 【映画『アアルト』監督インタビュー】 生誕125周年にひもとく、アルヴァ・アアルトの人生

モダンで時代の先駆者だった、最初の妻アイノ

アルヴァとアイノ

映画のためのリサーチを始めた監督は、すぐに最初の妻、アイノに興味を持ったのだとか。

「アルヴァとアイノは1920年代に結婚し、アイノが1949年に亡くなるまで一緒に働きました。最初の頃、アアルト建築のインテリアデザインは、主に彼女が担当していました。もちろんすべてではありませんが、アアルトのスタイルの基礎は、彼女が作ったと言ってもいいと思います。私たちは今、アイノの存在を認めることがとても大切。だから彼女のことを思い出さなければいけないし、彼女の存在を認めなければいけません。

アイノはとても強い人でした。早くから女性運動が行われたフィンランドでも、1920年当時に女性で工科大学に行き、建築家になるのはとても珍しいことでした。それだけでなく母親、インテリアデザイナー、アルヴァと共に作った「アルテック」社のCEOでもあり、アルヴァにはなかった大工のスキルまであったんです。非常にモダンで、当時珍しかった写真を始めるなど、新しいものに興味を持つ人でした。また、アルヴァよりも先に女性の建築家たちと一緒に欧州に出かけたり、女性の建築家のための協会「アーキテクタ」も創立しました。

アルヴァにとっても、いい奥さんだったと思います。アルヴァはとても外交的で派手なところがあり、女性に言い寄ったり(笑)、ユーモアがあって口の上手い人でした。アイノはどちらかというと内向的で、確固としたセンスやスタイルを持っていて、アルヴァにはアイノの静謐さが必要だったんだと思います」

アルヴァが最初の妻、アイノに宛てた手紙の朗読から始まる本作。二人の手紙を入手することができたことで、映画が作れると実感したそう。

「写真や8ミリはあるのですが、アイノの記録はあまりなかったんです。手紙のおかげで彼女が何を感じていたのか、アルヴァとのクリエイティブな関係についてどう思っていたのか、知ることができましたね。手紙にはアルヴァへの皮肉を込めた文章もあり、読んですごく共感しました。アルヴァはどんどん旅をして活躍しているのに、アイノは家にいて家庭や会社の面倒を見ている。そこに『僕は毎日パーティをしてすごく楽しいよ』っていう手紙がくると、そんなにいい気持ちになれないですよね(笑)。でもアルヴァとアイノがどれだけ深く繋がっていたのかということもわかり、とても感動しました」

アイノ・アアルトがデザインした、水の波紋からインスピレーションを得たグラスのシリーズ。

「彼女は手紙の中で『私はもっといい人間にならなければならない。アルヴァのようになりたい』と書いているのですが、孤独だったアイノの苦悩も見えて、悲しい気持ちにもなりました。アルヴァ自身も晩年、そのときのことをとても後悔しているという手紙を書いています。

また、アルヴァは『最初の頃、二人で一緒にクリエイティブにいろいろな仕事をしていた、あの時代が懐かしい』と繰り返し書いています。アルヴァにとってアイノは一番大切な人だったとわかりました。これは私の素人解釈ですが、アルヴァは8歳のときにお母さんを失っているので、もしかしたらアイノはアルヴァにとってお母さん的な存在だったのでは? 彼の慌ただしい人生のなかで安定させてくれる存在として、アイノを必要としていたのではないかと思います。アアルトファミリーもアイノの存在があまり知られていないことをとても残念に思われていて、もうちょっと知ってもらいたいという、彼らの気持ちも伝えたいなと思いました」

次のページもう一人の妻、アルヴァの晩年を支えたエリッサ

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