CULTURE
:シンガー・ソングライター、NakamuraEmiさん「人生に捨てるものなど何もない」/アルバム『PATCHWORK LIFE』インタビュー
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:軽やかなサウンドでありながらも、暮らしの隙間をそっと埋めるような共感性の高い歌詞や、語りかけるようなボーカルで人気のNakamuraEmiさん。メジャーデビュー10周年を迎え、完成した最新アルバムは、ご自身の辛い経験などを交えながらも、誰しもの人生すべてを肯定してくれるようなとても包容力のある仕上がりになっています。地元である神奈川県・厚木市での暮らしぶり、さらに人生観なども交え、このアルバムの魅力をおうかがいしました。
10年の活動で見えたこと、わかったこと

━━2026年はメジャーデビュー10周年という節目を迎えられました。
NakamuraEmiさん(以下Nakamura) この1年は、地元の厚木で初めて凱旋ワンマンライブができたこととか、これまで憧れていて共演できないだろうと思っていた方々との対バンライブとか、もういろんな方面から刺激をもらいすぎて、緊張する毎日だったのですが、そのぶん得られたものも多くて。それが今回のアルバムにも影響されていると思います。
━━前作からおよそ2年4ヶ月ぶりとなるアルバム『PATCHWORK LIFE』は、いろんな人との出会いや別れに導かれて完成された作品なのですね。
Nakamura 間違いなく。この10年間、支えてくださったリスナー/ファンのみなさんへの思いはもちろん、その間にあった葛藤なども表現することができました。自分に残っている感情をすべてアルバム注ぎこめられた気分です。
━━デトックスみたいな?
Nakamura まさに、デトックスですね。
━━本作には、亡くなられたお父様のことなど、過去のセンチメンタルな出来事も吐き出しているような印象がしたのですが、そういった辛い経験を時間をかけて咀嚼できたからこそ、今回表現できたみたいなところはあるのでしょうか?
Nakamura 10年前に感じたことと、40代中盤になっての感情の振り幅が変わってきて。人との別れとか、生きる・死ぬということ関して真正面から向きあえるようになれた年齢になったのかなと思います。
━━今作品もカワムラヒロシさんがプロデュース。どういうやりとりで制作を?
Nakamura 今回は、カワムラさんとふたりだけですべてを作りあげた初めての作品になるのです。以前は、エンジニアさんなどにお願いをしていたのですが、本作ではそこもカワムラさんが担当してくださり、スタジオも共同で借りているところで、ふたりで試行錯誤をしながら制作しました。でも、この10年に出会った人々との経験が蓄積されたからこそ実現できたものなんだなと思います。その思いもこもった、これまでで最も熱く刺激的なアルバムになったのかなって。
━━確かに、冒頭の「幕開け」から、濃密な音に圧倒され、Nakamuraさんのこのアルバムにかける思いが伝わってきました。
Nakamura ありがとうございます!
━━そんなアルバムのタイトルを『PATCHWORK LIFE』にした理由は?
Nakamura うちの母もそうなんですけど、カワムラさんのお母様も刺繍の先生をやられている影響もあって、それに対して親近感があるせいか<糸で紡ぐ>は、自分のなかでとても大切な言葉でして。当初は、タイトルも気にせずに曲を作っていくうちに、今まで出会った人や経験、悲しい・うれしい経験も、全部を繋ぎあわせて、現在の自分があるというか。10年音楽を続けさせてもらったんだなっていうのをすごく感じました。捨てるところがない、パッチワークみたいな人生だなって感じたことから降りてきたタイトルになります。
━━タイトル曲もそうですが、人生って当時は<寄り道>と感じたことも、振り返るとそれが現在の自分らしいデザインになっているみたいな気づきを与えるナンバーばかりが収録されていますね。また、それを伝えるボーカルも感情豊かというか。現在だからこそ生みだせる説得力があります。
Nakamura 10年前と比べると、歌うことが楽しくなっているというか。この10年でいろんな出会いがあって、今は歌がうまくなることで、表現できる幅はもっと広がるんだという、あたりまえのことに気づいたのです。以前は、歌詞を伝えることだけに集中していて、歌がうまくなることはちょっと邪魔かなって思う部分がありました。だから、ボーカリストとしてはまだまだなんですけど、少しでも言葉をふくよかに、いろんな表情でだせるようにっていうのは、すごくこだわりましたね。また、喋るようなフレーズはケータイのボイスメモで録ったものだったりとか、自分の部屋で録ったものをそのまま入れたりだとか、いろんな声の要素を組みあわせて完成させたので、声のこだわりが強いアルバムになりました。
「これが最後のアルバムになっても悔いはありません」

━━誌面インタビューでお話ししていただいたリード曲の「呼吸」は、まさにNakamuraさんの息づかいが迫ってくるような楽曲ですよね。また、それに続く「エステみてぇだな」は、タイトルからするとユーモラスな内容なのかと思いきや、亡くなられたお父さまとの思い出を綴った感涙のナンバーですね。
Nakamura 先ほどおっしゃっていただいた<デトックス>というのが、私の音楽のなかでとても大事で、何かあったら誰かに話すというよりはすぐにノートに殴り書きをし、それを歌うことで自分はわだかまりがおさまるみたいな感じの作りかたなので、この楽曲の元となる言葉は父が亡くなった年にすでに書いていたものでした。<哀しくて、寂しくて、辛い。もっとこうしてあげたかった>とか、書きたかったけど、父の死から7年間ずっと音楽にすることができなかった。いつも言葉を書きとめてるんですけど、父のことを綴った数ページだけは見ることすらできなかったんです。でも、昨年厚木で初めて開催したライブで、これまで招待したことのない家族・親族を呼んでステージをみてもらった瞬間、自分にはもう隠すものが何もなくなったという解放感が生まれて、なるほど、これならかけるかも?と思いました。さらに、その後も対バンですごいミュージシャンのみなさんと共演していくうちに、自分の力がみなぎっていき、吐きだすように一気に書きあげました。歌詞に関しては、いつもなら数ヶ月かけて完成するのですが、これは2、3日で書いてそのままレコーディングに流れたという感じでしたし。哀しい曲ゆえに、どんなトラックにするのかは悩みましたが、カワムラさんがヒップホップみたいなリズムを考えてくださって、それが奇跡のようにみごとにフィットしたなと思います。
━━この軽やかなビートがあるからこそ、哀しみからデトックスされたみたいな感覚が楽曲にあるような気がしました。この楽曲を制作されたことで、お父さまに対する思いの変化はありましたか?
Nakamura なんだか、すごくほっとしたというか。もっとああしてあげられたらよかったとか、今でも後悔はいっぱいあるのですが、この楽曲が完成したこと、アルバムができたことが自分の人生にとってとても大きなものになりました。たとえば、余命宣言を受けたとして、このアルバムが最後になったとしても悔いがないという気持ちになれたのは、この楽曲と「呼吸」を収録することができたことで悔いはないかなって。
━━また、別れを表現するいっぽうでウェディング・ソングというか、新たな人生を祝福する「RIBBON」も収録。こちらも、いろんな経験を積んでいるからこそ、一面的ではない祝福の思いが伝わってきました。
Nakamura ともに音楽を制作し、いろんなことを話してきた仲間がプロポーズをするという話を聞いて、完成させた楽曲。新しい家族ができて、でも必ずいつか別れがやってくるのですが、自分が君より長生きしてちゃんと見送るから、泣いたり悲しまなくていいよっていう、現在の自分らしい愛のカタチをここに描けたことがうれしかったですね。
━━アルバム前半はちょっと壮絶な感情を表現している楽曲が目立ちますが、後半に入ると「RIBBON」を含めおだやかな日常が伝わってくるものが多い印象がしますね。
Nakamura それはめちゃくちゃ意識しています!今回はLPもリリースするので、アナログ盤をひっくり返したときに、どういう楽曲にしたらいいのか?というのを何十パターンも考えて、構成しました。それを含めてのアルバムなので、ぜひ曲順どおりに聴いていただきたいですね。
地元での暮らしをより充実させたい

━━10年ぶんの感情と向きあいながら制作されたアルバム。この制作を通じて見えたこと、今後につながる収穫はありますか?
Nakamura もう何も悔いはないと言いましたが、すでに次の楽曲のアイデアがたくさんありまして(苦笑)。現在は、台風や震災など、自然界のパワーみたいなものを強く感じる出来事が多い。だからこそ、土とか樹木など自然を感じるサウンドをとても作りたくて。そういう話をカワムラさんとしています。
━━リンネル読者にとっては興味深い音楽になりそうですね!でも、その前に本作を携えた全国ツアーもスタート。今回は、カワムラさんとのデュオ編成とバンド・セットの2つのバージョンで展開されるそうですね。
Nakamura デュオでは、カワムラさんのギターと私の歌をベースに、ほかの楽器にも挑戦しながら、歌詞の魅力を感じていただけるような構成にしようと思っています。バンドでは、この10年ずっと支えてくれてるメンバーと、彼らと積み重ねてきた日々を総括するような景色をお見せすることができたらと思っています。
━━楽しみにしています。ところで、Nakamuraさんはリンネルをよくご覧になっていただいていらっしゃるということで、何か暮らしにこだわりがある気がしました。アルバム収録曲に地元である神奈川県・厚木市のことを歌った「MICHIKUSA」もありますが。厚木は暮らしにちょうどいい場所なのでしょうか?
Nakamura 以前は東京で住もうと考えたこともありましたが、クルマで1時間あれば到着できる。本当に自然豊かな場所で、ちょっと歩けばすぐに山奥なので、休日はそこにあるコーヒー屋さんで本を読んだり曲を書いたりしているのが、自分の暮らしにちょうどいい。また、作業場も湘南近辺なのですが、海に3分ぐらいで到着できる場所。自然と触れることが、現在の自分にとって大きなパワーになるので、そこから離れて暮らすことは考えられないですね。
━━では、お部屋などもできるだけナチュラルなものを取り入れていらっしゃるのでしょうか?
Nakamura 木材が大好きすぎて、テーブルとか選ぶのにとても時間かかっちゃいますね。それが使いこまれていく過程も愛おしさを感じます。また、一時期ミニ菜園みたいなこともやっていたのですが、最近周囲のミュージシャンのみなさんが農業を始められているのを拝見していて、また挑戦してみたいですね。
━━パッチワークならぬ、ボタニカル・ライフですね(笑)。
Nakamura そのとおりです(笑)。
━━また、今回のアルバムでは死生観なども表現されていらっしゃいますが、40代になられると今後の生き方だとか<終活>みたいなものを考え始めたりすることもあるかと思います。メンタル・ヘルスとはどう向きあわれていますか?
Nakamura 現在母ちゃんと一緒に暮らしているですが、彼女だけは私が見送るというのが大きな人生の目標でして。父もそうですし、その後亡くなった愛猫も、彼女ひとりで見送らせてしまったので、せめて母ちゃんの最期だけは私がという思いがあります。だから、今は母の終活のほうを優先させている状況で、私は彼女より長生きして、見送ってから自分のことをじっくり考えたい。でも、お互いいつ死ぬかわからないから、これはもう処理しようとか、怖がらずに結構リアルに話しあっていますね。
メジャーデビュー10周年を迎え完成したアルバム『PATCHWORK LIFE』

NakamuraEmi/¥3,800
日本コロムビア
now on sale
プロデューサーであり、長年のコラボレーターでもあるカワムラヒロシさんとの共同制作のなかで紡がれた全10曲。厚木市のシティプロモーションオフィシャルソングとして制作された「MICHIKUSA」など、現在も拠点にしている故郷への思い、また現在の充実した暮らしぶりもうかがえる楽曲も収録。温かな風が流れる作品。CDのほか、LP、Tシャツ付きの限定盤も発売。
PROFILE
なかむらえみ/1982年神奈川県・厚木市生まれ。02年より音楽活動を開始し、16年にメジャーデビュー。10月の神奈川BLUE Enoshimaを皮切りにNakamuraEmi「PATCHWORK LIFE Release Tour 2026〜2027」がスタート。26年の公演はカワムラヒロシさんとのデュオ編成、27年はバンド編成でのステージに。1月17日は、東京・Zepp Shinjukuにて公演。最新情報はこちら
photograph:Miho Kakuta text:Takahisa Matsunaga
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photograph: Miho Kakuta styling: mariko hair & make-Up: Hiromi text: Takahisa Matsunaga
※2026年9月20日発売のリンネル11月号では、Webとは異なる写真とインタビュー記事を公開予定です。
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