1. 建物の造りを活かしたインテリア
野口さんとチダさん夫妻が暮らすのは、アントニン・レーモンドに師事し、モダニズムと日本建築の融合を図った吉村順三さんが設計した築44年のヴィンテージマンション。
「実は25年前に、このマンションの隣の部屋に住んでいたんです。そこからいろいろなところに引っ越しましたが、ここは僕らがちゃんと世界観を作るということを考えて住んだ場所だったので、原点なんですよね。前の住人がキッチンの色や材質も、吉村さんがデザインしたまま手を加えないで住まれていたので、古くなってしまった絨毯を張り替えたり、壁を塗り直したりときれいにしただけ。ここに住む方は皆、このマンションが好きで住まれているので、5世帯中4世帯は僕らが以前住んでいた頃からのメンバーなんです」(チダさん)
世界各地から集めた猫雑貨を飾ったショーケースやキッチンに上がる階段など、すべてもともとの設計。すべての部屋の天井に照明がひとつもなく、間接照明を置いて楽しんでいるそう。
「照明がない代わりに、窓がすごく大きい。日本の蛍光灯は眩しすぎますよね。リビングに置いたイサム・ノグチのガラステーブルが反射して、天井に当たって照明のように明るいんです。こういう偶然を楽しめるのも照明がないから。朝ちゃんと明るくて、昼から薄暗くなりはじめて、夜は真っ暗。光と共に生活ができます」(チダさん)
モダンな建築ですが、デザイン性だけでなく使い勝手もよく考えられていると感じているといいます。
「すっきり見えるのは、収納家具を置く必要がないから。収納がすごく多くて助かっています。隠し収納が仕切りも兼ねていたり、クローゼットが広かったり、動線もよく考えられていて便利ですね」(野口さん)
2. 家具はデザインより、バランスと雰囲気が大切
置かれているものひとつひとつが、とても素敵なお二人のご自宅。インテリアのテーマを伺うと、意外にも特にないのだそう。
「年代も国もごちゃ混ぜ。質感やテンション、バランス感や雰囲気の方が大切です。唯一デザイナーにこだわったのが建物で、最近まではデザイナー家具にも興味ありませんでした。ようやくデザイナーのしっかりした家具のよさが見えてきたところなんです」(チダさん)
「テーブルや椅子の質感もツヤツヤしたものよりも、ナチュラルに仕上げたものがいいなと思います。あとは素朴すぎないことも大切。ナチュラルすぎず、かといってデザインが強すぎないもの。デザイナーさんの家具も素敵なのですが、ひと目見て誰のデザインかわかってしまうのもおもしろくないなと思って。だからちょうどいい塩梅のものがなかなか見つからず、最近やっとダイニングテーブルを買えたところなんです」(野口さん)
家具は相談して買うというお二人。アーティストによる作品もたくさん飾られているからこそ、家具のデザインとの調和がセンスの見せどころ。
「夫婦で趣味は似ていますが、ぶつかるときも。特に大きな家具は、話し合いが長いですね。意見がぶつかったときは、最終的に私の意見になることが多いですかね(笑)。ヴィンテージの家具も混ぜつつ、主張が強すぎずいいものを選んでいます。建物が素敵なので、だいぶ助けられています」(野口さん)
3. 目指すのはミニマムな暮らし
現在、こちらの家と湘南の2拠点で生活しているお二人。ミニマムな暮らしを目指し、ここに引っ越しをする際に60脚あった椅子の半数を友達に譲ったのだとか。
「これまでのコレクションをどんどん手放しています。特に昔作っていた服や音楽関係のもの。レコードは2000枚くらい手放しました。少しずつ手放すと、本当に必要なものが残っていくんだろうなと思います。僕の場合は一回リセットしないと、新しいものを見つけづらい。必要なものが見えてこないんですよね。大事に買ったはずなのに一度も開けていなかったものも、見直してみてやっぱり好きだなと思ったもの以外は、どんどん手放していますね」(チダさん)
その代わりに増えたのは器。ギャラリーを始める5年ほど前までは、あまり興味がなかったというチダさんですが、今は陶芸を楽しんでいます。
「クラフトの作家さんとやりとりをしたり、器を見る機会がすごく増えました。作家の人たちと話していると使ってみないとわからないので、きちんと作家の方から直接買っていこうと思って、最近急激に増えた感じです。いいと思って買ったからといって、よく使うとは限らないところも、ちょっと面白いなと感じます。
愛猫のオブジェを作ったことをきっかけに、自分で少しずつ陶芸も始めて。湘南の方にはアトリエと窯もあります。2年ほど前からは、奥さんのブランドの服(「ayanoguchiaya」)には、自分が作った陶器のペンダントをつけています。すごく楽しいですね」(チダさん)
PROFILE
野口アヤさん
ファッションデザイナー、ディレクター。いくつかのメゾンを経て、2000年に独立し、夫とともに自身のブランドを運営。2017年、長年続けたデザイナー活動を一旦終了させ、築100年の古民家をシソンギャラリーとして改装オープン。経営とディレクションを開始。2020年より、ブランド「ayanoguchiaya」で物作りも再開。
Instagram: @___aya_noguchi_aya___、@ayanoguchiaya
https://ayanoguchi.official.ec
チダコウイチさん
クリエイティブディレクター。シソンギャラリー代表。これまで 30以上ものブランドのディレクション、ショップの立ち上げ、プロデュースなどに携わってきた。また、プライベートでは多くのヴィンテージ住宅を移り住み、インテリアや建築の愛好家でもある。
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photograph:Akira Yamaguchi text & edit:Mayumi Akagi
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