今年で20周年を迎えた、沼津の人気雑貨店「hal」。店主の後藤由紀子さんの、20冊目となる著書『雑貨と私』(ミルブックス)が発売になりました。幼少期から現在に至るまでの歩みを振り返り、丁寧に綴られた文章から、初めて知るような後藤さんの素顔が垣間見られます。本書の中からその一部を3回にわたってご紹介。さらに最終回となる今回は、後藤さんが一歩踏み出すためにしたことについて、お話を伺います。
- 言い訳をやめたら、世界が変わった
- \後藤さんのこぼれ話/今日を生ききる
後藤由紀子
静岡県沼津市生まれ。東京の雑貨屋で勤務後、2003年に地元の沼津市で器や衣類、書籍を扱う雑貨屋・hal(ハル)を開店。『雑貨と私』を含め、これまでに20冊の書籍を上梓。
Instagram:@gotoyukikodesu
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言い訳をやめたら、世界が変わった
ある編集者から、新しく創刊する雑誌の出演依頼がきた。話を聞くと、スタイルのいいモデルではなく、地方で雑貨屋を営む二人の子供を持つ私のような、ごく普通の人たちが登場するファッション誌にしたいという。
私“なんか”をやめて、流れに身を任せることを決めていた。それでもまだ心のどこかで、本当に私でいいのだろうかという思いがあった。しかし、店にとって新しいなにかに繋がるかもしれないという前向きな気持ちが芽生えていた。
雑誌の見本が届き表紙を見た瞬間、とても驚いた。店の前で撮影した普段着の私の写真が表紙になっていたのだ。
誰も知らない私の写真が表紙になった雑誌・ナチュリラは好評だったようで、 創刊号以降も続けて出演することになった。気がかりだった否定的な声も届くことなく、ひと安心した。
それどころか、とても嬉しい出来事があった。地方でひとり雑貨屋を営む子育て中の私に親近感を覚えた人が多くいたようで、雑誌を見て全国各地から沼津まで足を運んでくださるようになった。中には、店を開きたいけれどなにから始めたらいいかと相談するお客さんもいた。
お母さんだから子育てをちゃんとしなきゃいけない、そんなふうに悩んでいる人にいつもこう話している。
「育児も家事も、ちゃんとしないで大丈夫です。愛情さえたっぷりあれば、手が抜けるところはできるだけ抜いてください」
そうすることで心が軽くなり、店を始めるための一歩を踏み出す人が増えたら嬉しい。 大変なこともあるけれど、身も心も健康でいられる。開業にあたり、資金や周りの協力は必要である。しかし、その環境を整えることができるのなら、なにもわからなくても、まず始めてほしい。
かつての私は、店をやりたいのに、やらないための言い訳を集めていた。それをやめて、自信もなく無知のまま走り出した時から、風景は変わっていった。きっと傍から見たら、なにひとつ変わっていないだろう。自分が変わらなければ、世界は変わることはない。
\後藤さんのこぼれ話/今日を生ききる
後藤さんが「私なんか」をやめたきっかけは、手相を見てもらったこと。
「37歳の誕生日に手相を見てもらったときに、“私「なんか」をやめた方がいいよ”と言われました。続けて”きっとものを作るようになるわよ”と言われて、そのときはピンとこなかったのですが、今ワンピースやバッグなどを作っていることを思うとなんだか不思議です。
大病をしてからいつも、明日何が起きるかわからないと思っていて、期限を決めて今のうちにやって、今日を生きようと考えるようになりました。一日一生という思いでいます。体力のあるうちに夫と旅行に行ったり、出張halであちらこちらに行きたいと思っています」
本書は20周年を記念して、集大成となる本を作りたいと出版社に企画を持ち込んだそう。
「21年目で出すより20年目で出す方がいいなと思ったんです。この本では今まで記してこなかった、幼少期の頃のことから東京で過ごした時期のこと、今に至るまでを正直に書きました。あのときに自分がやっていたことは、全部今に繋がっている、ということがよくわかりました。20周年を迎えましたが、大きな目標はなく、現状維持で1年でも長く店をできたらいいなと思っています」
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photograph:Miho Kakuta text & edit:Mayumi Akagi
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
※本記事は『雑貨と私』(ミルブックス)からの抜粋にインタビューを加筆しています
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