CULTURE
:坂本美雨さん「世界に目を向けながらも、自分たちの暮らしも大切にしたい」/アルバム『Something True』インタビュー
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:映画『国宝』の主題歌の作詞を担当されたり、またパレスチナ・ガザ地域への人道支援など、幅広い活動が話題となっている坂本美雨さん。4年半ぶりに完成した待望のアルバムは、刻々と変化していく世界のなかで、私たちが大切にしたい<真実>を手探りで探し続けた作品に。今回のアルバムに託された思いを、ちょっとほっこりするハプニングを交え、WEB先行でお伝えします
ライブの解放的な声をアルバムに表現

━━4年半ぶりとなるアルバムが完成しました。この期間は、さまざまな変化が起こった時間だったかと思いますが。
坂本美雨さん(以下坂本) 世界情勢がガラッと変わって、パレスチナで起きている虐殺を止められず、またそこに日本も加担してしまっていることや、世界で起きていることを見ないふりをして、音楽をやることはできないという気持ちが強くて。また、自分の日々の暮らしも、世界で起きていることの延長線上にあるんだと実感しています。だから、自分の生活も、仕事も、作る音楽も、すべて政治と無関係ではいられないんだと。。それと切り離して、幸せないい音楽を作ることなんてできませんでした。この時代に何を歌うべきかを、隅々まで嘘がないように考え抜いて、完成したアルバムですね。
━━じっくりと時間をかけて、作られたみたいな?
坂本 時間をかけたというわけではないのですが、取りかかるまでに時間がかかったという感覚ですね。
━━タイトル『Something True』にも、真正面から問題と向きあう真摯な姿勢を感じることができました。
坂本 本当にすがるような気持ちで、自分にとって本当のことや、揺らがないものは何だろうと考え続けていました。それをひとつひとつ拾い集めるようにして完成したアルバムなので、このタイトルになりました。
━━今回でもプロデューサーの方が、伊藤ゴローさん、原摩利彦さん、森山直太朗さんとそうそうたる顔ぶれになっていますね。原さんとは映画『国宝』のサントラなどで共演がおありですが、伊藤さん、森山さんとはどういうきっかけで本作に参加されることになったのでしょうか?
坂本 ゴローさんとは、近年ライブでご一緒する機会が何度かあって、その時に「美雨ちゃんのライブのときの歌が本当にいいよね。その声をレコーディングできたらいいのに」とお話ししてくださって。確かに、ライブをしている瞬間の、のびのびと解放された気持ちを作品として表現することが、これまでなかなか難しかったので、ゴローさんとご一緒してみたら表現できるのだろうか?という思いから、このアルバムの制作が始まりました。その後、自分の気持ちが迷宮入りしたりもして時間はかかったのですが、『Something True』を探していく過程で、原さんや森山さんとも自然につながっていったんです。原さんとは、これまでいくつかのプロジェクトでご一緒する機会があり、またパレスチナや世界情勢の変化に対しても、すぐに目を向けて、できる限りの寄付をしたりとか、辛い出来事も共有してきた仲。その日々のやりとりの延長で、彼の京都にあるスタジオで合宿しながら制作しました。「Fog」という楽曲では、もやもや・ぐるぐるとしている気持ちをそのまま吐露できましたし、ガザの大学教授・詩人リファアト・アルアリイールの詩をもとに制作した「If I must die」も大切な1曲に。リファアトさんが書いた<私が死ななければならないのなら、あなたは生きて。それを希望としてほしい>という言葉は本当に強く、優しいものだと思う。もちろんパレスチナ被害者のみなさんの人生、生きてきた物語・歴史を語り継ぐという意味もあるのですが、その言葉はどの時代にもあてはまることだと思うので、この楽曲は歌い継いでいきたいなと思います。森山さんは、昔からの知りあいというか、親同士が仲良く、育ってきた境遇が似ているので、親近感を覚えていて。近年は、共通の友達のお家で一緒にご飯を食べたり、お互いのステージに参加したりと、交流が続いていました。私が歌えなくなっていた当時も、直太朗さんはずっと歌い続けていて、100本ツアーを廻られていたり、精力的に歌い続けている姿をみてすごく励まされましたし、また彼は歌えない私の気持ちを心から理解してくれました。言葉にしなくても通じ合う部分がとてもたくさんあって、彼なら、彼の言葉ならば、歌える気がすると思いました。それで正式にオファーをしたところ、もう曲あるよって(笑)。「美雨ちゃんが歌ったらどうかなっていう曲があるんだけど」っていただいた3曲を収録しました。
━━「カレー屋の娘」など、ユニークな楽曲が多いですよね。
坂本 この楽曲や「美しい雨」は、10年ほど前から自分用にストックしてあった楽曲だったようなのですが、私が歌ったらどうなるのか?と思っていただいていたようで。「食卓」に関しては、歌詞を添削のような感覚で彼にお渡ししたところ、倍ぐらい言葉を書き加えてくださって(笑)。
━━なるほど。その「食卓」を含め、アルバムの前半は暮らしの風景が思い浮かぶような楽曲が多いですよね。
坂本 最初から考えていたわけではないのですが、True(真実)を拾い集めていくうちにでてきたものですね。つまり、大きい世界の動きがあると同時に、すごく小さな自分のプライベートな暮らしも存在していて。そのマクロとミクロが、両方入った気がしますね。
自身のなかにある教授の魂を受け継いで

━━暮らしの風景を楽曲に描く場合、心がけていることはありますか?
坂本 そうだな……(と娘さんから電話が)。「どうした?うん。い、いいよ。いいよ。いいけど。オッケー。じゃあ、一緒に練習しようね。いまお仕事しているから、続きはメッセージしてね。ダメ!それはダメ。どっちかっていうか。ダメ。あとでだよ。はい。じゃあね(と電話を切る)」。……アイスを買っていい?っていう話でした(笑)。
━━(笑)。わざわざ確認の電話をするってかわいいですね。でも、そういうお子さんとの会話とか、何気ない言葉から気づきだったりとか、曲のアイデアが浮かぶこともあるのでは?
坂本 アイデアになるというより、もっと概念的なことになります。世界を見渡すと、本当に悲惨で不当な扱いを受けている人たちがいる状況で、のほほんと平和な環境で暮らしていることが、心苦しくなります。こんなことしてる場合なんだろうか?みたいな気持ちにもなりますが、こちらはこちらでも生活をしなくてはいけない。だからいま置かれている環境に絶対に罪悪感なんて持っていけないし、悲惨な世界が同時に存在することが信じられませんが、受け止めなくてはいけない。現代を生きる私たちは。だから、世界に目を向けつつ、自分の娘を慈しむ時間、その両方を大事にするバランス感覚を持たなくてはいけないと思うのです。それはとても大変なことですが、この時代に生まれたからには誰しもがやらなくてはいけないことなのではないでしょうか。「自分に与えられた幸せに感謝を忘れてはいけない」という言葉を目にする機会が多いのですが、そこで止まっていてはいけないと思います。世界の人々へ目を向け、具体的に何かアクションをすることもやらなくてはいけない。現代を生きるがゆえに必要なバランス感覚。そのことを自分なりに考え続けた軌跡が、このアルバムなのかもしれません。
━━また、本作では2023年にこの世を去った坂本龍一さんの楽曲2つを再構築。これら楽曲をセレクトされたのも、美雨さんの思いがあるような気がしました。
坂本 「Some Small Hope」(1986年発表)は、重苦しい空気が漂う歌詞が、この世界情勢、またそのなかにいる自分にも、ぴったりしたという感覚がありましたね。「静夜曲」(2008年)は、教授(坂本龍一さん)の亡くなったあと、彼にいちばん近いスタッフのかたから「これを美雨ちゃんが歌ってみたらどうだろう」と提案いただき、かつ当時のピアノ・トラックを使用できることになったので、歌わせていただく流れになりました。
━━こういったカタチで教授とご共演されていかがでしたか?
坂本 不思議な感覚でしたけど、ピアノ・トラックが素晴らしいというか。当時の空気が入っていて、すぐそばに彼がいる感じがしたし、また揺らぎのある音のなかでも、歌ってみるとピタッと息があう瞬間がありまして。それはもうあわせようとしても絶対に表現できないものだと思いました。ふたりが持っている、お互い共通している空気感や呼吸は、亡くなっても消えないものなんだなって。私のなかにちゃんとあるんだなと思いました。
━━今回のアルバム制作を通じて見えた景色、変化したことはありますか?
坂本 すごく迷いに迷って、できない!って言いながら、大好きな人たちの力を借りて、なんとかできあがった作品。結果、自信がでましたね。自分でやった達成感ではなく、しっかりみんなに甘えることができるようになったという自信が。来年(デビュー)30年を迎えるのですが、これまで直感を信じてさまざまな人と出会うことができ、本当に好きな人と音楽をやってこられて、とても恵まれていたと思うし、それを信じてきた、直感を信じてきた自分に自分を褒めてあげたいというか。そういう人との繋がりの歴史が詰まったアルバムにもなっていると思います。
━━これからも直感を信じて、誠実な音楽を追求していくのでしょうね。
坂本 好きな人たちとつながっている限り、音楽を作りたいという気持ちは消えない気がします。自分ひとりだとできないかもしれないけど、誰かと何かを作る、生みだすということ。それこそが希望だし、生命力であり、また悪意みたいなものに対する抵抗だと思う。このぐちゃぐちゃした世界に負けず、喜びを創造したいという気持ちをちゃんと持ち続けていられるのは、周りの人のおかげですね。
日々、心に湿気をためないように

━━アルバムを聴いていると、暮らしにおいてフォーカスすべきことが見える気がしましたが、作品を通じてどういう景色を感じ取っていただきたいと思いますか?
坂本 『リンネル』の読者のみなさんは、暮らしを大切にしようとしてる人ばかりだと思いますが、この世界・日本の社会には人を傷つけたり、差別したりすることに目を向けている人もいて。それに傷ついてる人も多いと思うのです。そういう人に、自分たちも同じだよと。一緒にこの世界で生き延びていくために、お互いを慰めあいながら進んでいくしかなくて。そういう力に少しでもなれる作品になれば幸いです。
━━最近の坂本さんの暮らしのこだわりがあれば教えてください。年々厳しくなっていく暑さの対処法などあれば。
坂本 暑さもそうですが、年齢を重ねるごとに体調が変化していくので、いい状態を保ことが本当に大切ですよね。だから、そのために何をしたらよいのか、私がみなさんに教えていただきたいほどです(苦笑)。
━━不機嫌になってしまった瞬間に、心をととのえるアイテムとか、ルーティンはあったりしますか?
坂本 無理をしないに限ります。あたりまえのことですが、日常を暮らしているだけでも無理なことがいっぱいあるじゃないですか。満員電車に乗るとかもそうですし。それがデフォルトになっている世の中であることには間違いないので、毎日変わる自分の体調とか、そういうことに目を向けるようにはしていて。なんかちょっと違うなと思ったら、それに対する漢方の飲むとか、身体をほぐすとか、大ごとにならないうちに、自分のちょっとした変化を見逃さず、微調整をする。そういうことの積み重ねの日々ですね。
━━身体をほぐすことが、メンタルヘルスにも役立ちますよね。
坂本 本当に。ダルさから気持ちが沈んだり、不機嫌になったり。そういうことも全部、身体の状態とつながっている気がするんです。だから、心の湿気は溜めないようにすることが大切だと思います。
━━「カレー屋の娘」という楽曲もあるますから、坂本さんもカレー好きなのですか?
坂本 カレーは、直太朗(笑)。彼はエキスパート。自分のカレーをだすくらいなので。
━━坂本さんは何かお料理でこだわりがあったりしますか?お子さんもいらっしゃると、なかなか料理に時間を割くことも難しいとは思いますが。
坂本 毎日のお弁当作りは大変ではありますが、とにかくお味噌汁は作るようにしています。娘も、お味噌汁だったらどんな食材でも喜んで食べてくれますし。朝は、そこにご飯を入れて雑炊にしたりだとか。お味噌汁への信頼がすごい強いです(笑)。
━━お気に入りのお味噌はあるのですか?
坂本 新潟にある布施農園さん(ウェブサイトをお知らせいただけると幸いです)のお味噌。新潟だからちょっと塩味が強めですが、おすすめです。また、ご飯のお供にみっちゃんの梅(https://micchannoume.saleshop.jp/)も大好きです。私は贈答用でもよくお取り寄せしていますね。
4年半ぶりとなるアルバム『Something True』

坂本美雨/¥3,520
ユニバーサル ミュージック
now on sale
アニメ映画『もし、これから生まれるのなら』の主題歌「Lullaby」や、イスラエルの空爆で殺害されたガザの詩人・大学教授であるであるリファアト・アルアライールの「If I must die」にメロディをつけたナンバーなど、全11曲を収録したアルバム。暮らしの狭間にある感情にそっとよりそい、優しく埋めてくれるような坂本さんの歌声に、心が救われたような気分になる楽曲の数々。すべての人や物事に対して誠実に向きあう姿も伝わってくるはずです。
PROFILE
さかもと・みう/1980年生まれ。東京とニューヨークにて育つ。97 年、「Ryuichi Sakamoto feat. Sister M」名義で歌手デビュー。以降、音楽活動だけでなく、動物愛護や児童保護など、さまざまな社会問題にも精力的に取り組み、24年にはガザの人道支援を集めるためのオークション【Watermelon Seeds Fundraiser (ウォーターメロン・シーズ・ファンドレイザー)】を主宰する。
9月21日には東京・キリスト品川教会 グローリア・チャペルにてワンマンライブ『Something True』を開催。最新情報はオフィシャルサイトにて。
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photograph: Miho Kakuta hair & make-up: Hiroko Takashiro text:Takahisa Matsunaga
※2026年7月21日発売のリンネル9月号では、Webとは異なる写真とインタビュー記事を公開予定です。
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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