料理家のコウケンテツさんが、器や調理道具の作り手のもとを訪れ、作品が生まれるまでの背景を尋ねる「リンネル」の連載「コウケンテツのヒトワザ巡り」。第7回で訪れたのは、「やちむん」の文化が根付いた沖縄で作陶に取り組む谷口室生さんの工房、「室生窯」。誌面には書ききれなかったエピソードをお伝えします。
【谷口室生さん】
1975年、福岡県生まれ。やちむんのマカイ(お椀)に魅せられ、2002年より沖縄・読谷山焼の山田真萬氏に師事。2008年に独立し、2010年に沖縄・名護市に室生窯を開窯する。2014年、第66回沖展奨励賞受賞。
インスタグラム @murougama
【コウケンテツさん】
料理研究家。旬の素材を活かした韓国料理をはじめ幅広いレパートリーを気軽に作れるレシピが人気。雑誌をはじめ、テレビ、SNS、YouTubeなど多方面で活躍中。
インスタグラム @kohkentetsu
YouTube @kohkentetsukitchen
「やちむん」の生命力に魅せられて
沖縄の抜けるような青空と強い日差し、激しく熱を放つ窯。その生命力に惹かれ、「やちむん」の世界へ飛び込もうと決めたと話すのは、沖縄県・名護市で作陶を続ける谷口室生さん。
福岡県出身の谷口さんが沖縄の焼きもの=やちむんと出合ったのは、約20年前のこと。
「両親が画家だったこともあり、僕ももともとは油絵がやりたくて、アメリカに留学していたんです。でも、なかなか思うような作品が描けず、苦しい時期が続いて。そんなとき、大学で受けたセラミックアートの授業が面白かったのと、父に『絵で食べていくのは難しいけど、焼きものなら10年やれば家が建つ』と言われたことを思い出したんです。帰国して国内のあちこちの窯元を回っていたときに、たまたま沖縄のやちむんを見る機会があって。地面から生えてきたんじゃないか、と思えるくらいの力強いエネルギーに魅了されました」
絵は「器の外側まで広がるように」
その後は、沖縄を代表する名工のひとり、山田真萬さんに師事。5年ほど修行したのち、33歳で独立します。
「師匠から学んだことはたくさんありますが、そのひとつが『バランスをしっかり取りなさい』ということ。つくる器も、人間としても、すべてに対してのバランスですね。それと『器の中におさめないように、外側まで広がるように絵を描きなさい』とも教わりました。これはすごく難しいことですが、独立後の今でも大事にしています」
配色や組み合わせの工夫が、新たな表情を生む
やちむんの伝統である唐草文様や、「点打ち」と呼ばれる水玉模様を取り入れながらも、配色や組み合わせの工夫によって、新鮮さを感じさせている谷口さんの器。
器に白い化粧土をかけ、模様のところだけを残していく「掻き落とし」の技法を用いたり、北欧の器を思わせる鳥のモチーフを取り入れたり……と、新しいアプローチにも挑戦しています。
「伝統を気にしすぎると萎縮してしまうので、『自分が好きになれるかどうか』を一番大事にしています。模様は古いものから着想を得ることが多いですね。焼きものだけでなく、絵画だったり、海外で使われているモチーフだったり……。たとえばこのハートのような模様は、フランスの鉄格子のようなイメージで描いています。いろいろ資料を見たうえでデザインに取りかかるので効率は悪いのですが、違和感が残ったままやりたくはない。掻き落としも手数も多くてかなり時間がかかりますが、ちまちま作業をするのも好きなんです」
使う人の日常に、寄り添う器に
器の「見せ方」にこだわりながらも、大切にしているのは、使う人の暮らしに溶け込めること。料理との相性や日常的な使いやすさにも配慮していると話します。
「たとえば大皿であれば、チャンプルーのような汁気のある炒め物をはじめ、いろんな料理が盛りやすいような深さに。マグカップも、僕自身が毎朝コーヒーを飲むので、これくらいは入れたいな、と感じられる容量にしています」
独立から10年以上経って、作陶への意識も変わってきたという谷口さん。
「自分自身がやりたいことと、伝統とのバランスを取るのは難しいけど、それも楽しめるようになってきましたね。迷ったときは、また基本の仕事に戻ったりもするんです。表現したいものはその都度変わっていきますが、無理をせず、縮こまらずにやっていきたいですね」
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photograph : Tsunetaka Shimabukuro text :Hanae Kudo
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